文 : 鈴木玲子

鈴木玲子

鈴木玲子

すずきれいこ●65歳の関西在住主婦。学生運動に参加せず、学食でひとりボブ・ディランを弾き語った青春時代。大学では、フランス文学を専攻。卒業後、'70年の万博でのコンパニオンや海外生活を経て、現在は出来の悪い息子(ライター鈴木淳史)と出身地の芦屋で暮らす。労働後のライブハウス出没率高し。愚息イベント「SUZUDAMA~鈴木魂~」では、フランス語による前説を無理やり4年連続で披露させられている。Twitterは、@reikookanで呟き中。

Fri.29.Mar.2013

寅!寅!寅!

最近、気に入っているコマーシャルがある。それは、「オランジーナ」というジュース。スマートで洗練された、リチャード・ギアが「寅さん」のいでたちでカフェテラスに。その傍らに「くりっくり頭」の悪ガキ「小ガジロー」。「リチャード寅さん」のドジヘマを大口を開け、悪魔的に笑い飛ばす。「寅さん」が終わってから、もう18年。未だに、コマーシャルに使われるとは稀有の事。

「寅さん」が始まったのは、1969年。高度成長突入、誰もがシャカリキになって、ひとつの方向に突進していた時代。一億総働き蜂化する中、「寅さん」ひとりが別方向へふらりさ迷い出る。毎回美しい人に憧れ、破れ、稀に美しい人が一歩踏み出してこようものなら、すっとんで逃げてしまう。この不器用さが歯がゆくもあり、いじらしい。背中に哀愁を漂わせて、温かい家から出て行く独りよがりな「寅さん」を見て、「あ~、またか…」と思いつつ、「寅さん、カムバァーク!」と心の中で叫んでいる。単なる「マンネリ」なら、私達は「カムバァーク!」と叫びはしない。

「寅さん」には学歴も無く、家柄も無く、定職も無い。コンプレックスを感じる事無く安堵して、スクリーンに見入る。それどころか、その「自由さ」に軽い羨望を感じている。「寅さん」は俳句では、冬の季語だそうだ。そういわれてみれば、スクリーンにお正月の神社、露店、晴れ着姿の女性、高く舞う凧、こんなシーンを何度も見てる気がする。「そうそう、こんな風景だった。覚えがある」と昭和の子供達は懐かしみ、平成の若者達は「古臭い…」と言いつつも、「昭和も悪くないな」と物珍しく感じるらしい。絶対的善人の「寅さん」は、こうしてどんどん心にかかる存在になっていく。

「寅さん」は昭和15年生まれだそうで、敗戦の占領下の東京で幼少期を過ごした事になる。その頃、日本政府は失意の国民の為に、「国民体育大会」、すなわち「国体」を開催した。毎年、各都道府県持ち回りで現在に至っている。「寅さん」も全48作。日本中、3県だけ残したが、ご当地映画ともなった。阪神淡路大震災の後は、神戸長田区民たっての願いで長田にやってきてくれた。被災者には、格別の喜びであったろう。

「国体」ならぬ「国寅」となった「寅さん」。もし福島行っていたなら、東電の「想定外の事故」という説明に、「それを言っちゃ、おしまいよ」と四角い顔を一層四角くして言った筈。

ARCHIVES

  1. ▷ Mon.22.Sep.2014 「僕とテレキャノとロフト。」
  2. ▷ Tue.1.Apr.2014 「ABCラジオの時間。」
  3. ▷ Thu.9.Jan.2014 「たまたま埼玉」
  4. ▷ Wed.8.Jan.2014 「モテキ2014」
  5. ▷ Thu.12.Dec.2013 「冬の終わり~その時、ボクのハートは盗まれた~」
  6. ▷ Tue.3.Dec.2013 「少女A~中で学ぶ~」
  7. ▷ Mon.2.Dec.2013 「SUZUDAMA2013」
  8. ▷ Wed.16.Oct.2013 「Suzudama Times完成」
  9. ▷ Tue.15.Oct.2013 「一生忘れられない歌」
  10. ▷ Thu.15.Aug.2013 「サマージャム’13」
  11. ▷ Fri.9.Aug.2013 「デラシネ」
  12. ▷ Sun.4.Aug.2013 「8月8日は、『パプアニューグリラ祭』です♪」
  13. ▷ Mon.22.Jul.2013 「ほんまもんのレストラン」
  14. ▷ Thu.18.Jul.2013 「夏にして彼を想う」
  15. ▷ Wed.3.Jul.2013 「めひかりくるり」
  16. ▷ Fri.28.Jun.2013 「ギラギラ輝いていたヒマワリ…」
  17. ▷ Fri.21.Jun.2013 「オカンとピエールさんとマヤカン」
  18. ▷ Thu.13.Jun.2013 「50歳で出逢ったロックンロール」
  19. ▷ Thu.30.May.2013 「5月に捧ぐ」
  20. ▷ Wed.29.May.2013 「KING BROTHERSは不死鳥」
  21. ▷ Thu.16.May.2013 「雑誌広告のウワサの真相」
  22. ▷ Mon.13.May.2013 「日本語”プチ”研修中」
  23. ▷ Wed.1.May.2013 「レッドスニーカーズ×5月6日×シャングリラ」
  24. ▷ Fri.26.Apr.2013 「春の我が家の夕食」
  25. ▷ Fri.19.Apr.2013 「ほめてよ」
  26. ▷ Fri.12.Apr.2013 「離島に暮らす我が姪っ子」
  27. ▷ Sat.6.Apr.2013 「bloodthirsty buchers×KING BROTHERS」
  28. ▷ Thu.21.Mar.2013 「とりまきぐるぴ」
  29. ▷ Wed.20.Mar.2013 「太陽の塔」
  30. ▷ Fri.8.Mar.2013 「33」
  31. ▷ Wed.27.Feb.2013 「裏万博閑話」
  32. ▷ Mon.25.Feb.2013 「現場後記」
  33. ▷ Sat.16.Feb.2013 「タラモサラータ」
  34. ▷ Wed.13.Feb.2013 「ままぼく」
  35. ▷ Tue.5.Feb.2013 「ドナルド・キーン」
  36. ▷ Thu.24.Jan.2013 「いじめといじり」
  37. ▷ Thu.17.Jan.2013 「1月17日」
  38. ▷ Thu.10.Jan.2013 「古都からの若き刺客たち~2013年~」
  39. ▷ Thu.27.Dec.2012 「2012 BEST LIVE BAND」
  40. ▷ Thu.20.Dec.2012 「心のベスト10第一位は、こんな曲だった~2012年~」
  41. ▷ Wed.12.Dec.2012 「国境とパスポートと私」
  42. ▷ Wed.5.Dec.2012 「What’s Up, Woody Allen?」
  43. ▷ Wed.28.Nov.2012 「パリへの道中」
  44. ▷ Thu.22.Nov.2012 「後60分…」
  45. ▷ Wed.14.Nov.2012 「ハテナをミキサーにかけて」
  46. ▷ Fri.9.Nov.2012 「耳鼻咽喉科」
  47. ▷ Wed.31.Oct.2012 「”マヤカン”は遠くにありて思うもの」
  48. ▷ Wed.24.Oct.2012 「ライナー&ノーツ」
  49. ▷ Wed.17.Oct.2012 「2作目は機関銃を持って…」
  50. ▷ Wed.10.Oct.2012 「ラーメン!つけ麺!実母そうめん!」
  51. ▷ Wed.3.Oct.2012 「イライラをミキサーにかけて」
  52. ▷ Wed.26.Sep.2012 「そうだ!10月5日金曜日は、梅田クアトロの『SUZUDAMA’12~鈴木魂~ 新座長襲名公演』へ行こう!!」
  53. ▷ Wed.19.Sep.2012 「ランゲージとカルチャー」
  54. ▷ Sat.15.Sep.2012 「モテてんじゃねぇよ!モノ珍しがられてんだよ!」