文 : 鈴木淳史
Wed.3.Jul.2013
福島県の小名浜港へ、6月中旬とある取材で向かった。生まれて初めての福島県。僕の福島県、それも小名浜の印象といえば、このPVしかない。
しかし、このPVが福島県小名浜の薄磯海岸で撮影されていた事を知ったのは、震災後である。名産のめひかりという魚について知ったのも、震災後である。
小名浜港に沿って、タクシーが走る中、僕は運転手さんに話しかけた。
「このあたり、津波はいかがでしたか?」
運転手さんは嫌がらずに、淡々と話し出してくれた。
「そこを走っていたんですよ。10秒前は、あそこを走っていたんです。だから10秒前なら、津波にやられていましたよ」
何気に指差される道路…、何気に話される津波の恐怖。当たり前だが、あまりにも日常的に話される当時の光景。
「めひかりって美味しいんですよね? 買って帰ろうと思っていて」
「美味しいよ。ビールのつまみに、天ぷらにしてね。いや、素揚げでもいけるよ。普通に食卓に並んでいた魚でさ。もう、ここでは捕れないけど」
別に悲しい街だと伝えたいわけじゃないが、僕らが住む阪神地域も18年前にそうだったように、街は簡単には元通りに戻らない。あれ以来、小名浜港では何も捕れないことを教えられた。
「わかめが本当に育っているんだよ。そら、今まではすぐに採っていたから、あんなに成長したところを見ることなかったからね。オレらは残り少ない人生だからいいけど、子供たちのことを考えると何も食べさせらないよ」
現実を知ることは、大切だ。翌日、僕は漁港市場でめひかりを購入した。もちろん、福島県小名浜のものではない。でも、お隣の茨城県のものだった。さっそく帰宅して、運転手さんの言う通り、天ぷらにして食した。予想以上に美味しかった。でも、もう二度と福島県小名浜のめひかりは食べられない。
亡くなったり、解散したり、休止したり、脱退したり…、いつ何が起きるかわからない演者と一緒だ。後から、悔やんでも致し方ない。災害が起きなくても、街が開発という進化を遂げようとする限りは、自然の食べ物を食する機会は減っていく。それは、至って仕方ない。街に住みながら、自然も楽しみたい。欲張りかも知れないが、街だけを楽しむのも、自然だけを楽しむのも、僕はつまらない。
そんな事を想いながら、思わず買った”めひかりキーホルダー”に微笑み…、めひかりの天ぷらに再び箸を伸ばした。