文 : 鈴木淳史
Sat.15.Sep.2012
どうも、こんにちは。関西在住でライターの鈴木淳史です。さて、タイトルを見て頂くと一目瞭然ですが、「WEBサイト作るから何か書いて」と言われたので書いておるコラムです。ライターにとって「何か書いて」とか「何でもいいから書いて」というのは、一番困る依頼。女子が男子に「何、食べたい!?」と聞いて、「何か作って」とか「何でもいいから作って」と言われるのと同じくらい困ると考えてもらったら一番わかりやすいでしょうか。
でも、うだうだと言っていても仕方ないので去年の今日(現在8月15日)何をしていたかという、出来の悪いワイドショーのワンコーナーみたいなノリで今回のテーマを決めましょう。2011年8月15日、大阪は梅田の東宝試写室で映画「モテキ」試写会及び大根仁監督の記者会見、大根仁監督&森山未來君のインタビューを行っておりました。話はちょいと遡りますが、2010年夏ドラマ「モテキ」が放送されるやいなや、カルチャー好きの間で大変な話題になりましたよね。主人公の幸世自体が典型的なカルチャー好きであり、物語の中で彼の心象風景を現わすように流れる音楽がカルチャー好きを刺激したというのもあったでしょう。ちょっとおしゃまなドラマ、それもメインではなくサブ…、要は知る人ぞ知る的な優越感を満足させる捉え方だったと思います。だから、まぁ、みんな呑気に笑いながら観ていたんでしょうが、僕に言わせると「モテキ」は全く笑えない…というか泣けてばかりの物語。どういう事かというと、つまりは自分自身を観ているだけなんです。先ほど典型的なカルチャー好きなんて書きましたが、今は草食系なんていう便利な言葉もありますよね。でもね、僕に言わせると幸世なんて、あんなもん単なるサブカル文系めがねもやしっ子ですよ。社会協調性が基本的になく、自分の世界を突き進み、何となく大人になり、それも王道から外れた大人に…。間違いなく学生の頃もいじめられっ子タイプだったりするでしょう。王道から外れたとはいえ大人になり、今度は世の中、物好きな人もいるもので、その王道から外れた感が中途半端にもてはやされたりするわけです。で、中途半端に女子からモノ珍しがられる。この「モノ珍しがられる」という表現が肝となります。「モテている」のではないのです、「モノ珍しがられている」のです。考えてみてくださいよ、本当にモテている人には「モテキ」なんていう言葉は使いません。生まれて、この方ずっと「モテキ」だからです。生まれてこの方モテた事がない人間に使われる言葉なのです、「モテキ」は。正確にいうと「モノキ」ですよね、「モノ珍しがられている」わけだから。
一気にまくしたてるように書いちゃいましたね。この時点で僕の分析眼がウザくて吐きそうになっている人は、今すぐ外に出てジョギングでもするか、家の中でモンハンでもするか、近所の岩盤浴にでも行って下さい。終始、こんな内容ですので。さて、そんな「モテキ」に対する一方的で鬱陶しい片想い愛情を心に秘めて、東宝試写室に向かっていた訳ですが、家でドラマ「モテキ」DVDを見ている感覚で、まぁ泣いた泣いた…。突き刺さる…突き刺さる…。幸世の相変わらずな「愛し愛されて生きるのさ」という夢物語精神で、勝手に恋して、勝手に愛を押し付け、そして女子に「振り回された!」と勝手にいちゃもんをつけ被害者面をする姿…、まさに鈴木淳史そのものである…。で、またタチの悪いことに、そんな恋に恋焦がれ恋に泣く自分に酔っちゃうわけだ。あ~、キツイ…キツイ…。
教習所で、無免許運転で交通事故を起こし、家族が崩壊するという短編ドラマを見せられるじゃないですか。「だから、気を付けなさいね!」的なショック療法なわけですが、僕にとっての「モテキ」は、そんな感じなんです。だから、号泣してしまう。まぁ、今知ったかぶりで書きましたが、僕は免許ないので、実際は、その短編ドラマを見た事ないんですがね。多分、幸世も免許ないはずですよ。
そんな号泣試写会が終わった後、試写室で簡単な大根監督の記者会見に。質問タイムで挙手をした僕を見た瞬間、大根監督が「君、幸世みたいだね!」とひとこと。挙手して名前の名乗っただけで、見事に見抜かれてしまったわけで…。翌日には、「私信 浪花の幸世に告ぐ、ネタバレにならないように映画『モテキ』について100呟け!」とTwitterで指令を出される始末。おかげ、多くのフォロワーにタイムラインを面倒臭がられ、フォローを外されてしまいました。そんな事はさておき、映画で一番号泣した場面について最後触れて、筆を置きましょう。
それは、麻生久美子さん演じるOLのるみ子が、幸世から別れ話を告げられるシーン。B’Zを心から愛する一般的で普通の綺麗なOLであるるみ子は、カルチャーライターという業界人な幸世をモノ珍しがって恋心を抱く。自分と全く違うるみ子と、幸世は中途半端な好奇心から関係を持ってしまい、その気にさせときながら最終切ろうとする。まぁ、勝手な話だよ。最初から趣味感性が合わないのなんてわかっときながら、手を出しといてさ。さぁ、ここからが問題だ。夜のトンネル道で別れを告げ、悠然と前へ進む幸世。が、しかーし! 正気を逸脱したるみ子は後ろから猛然とタックルし、そのまま幸世を押し倒し、「神聖かまってちゃんとか勉強するから!」と泣きじゃくる。恐怖に脅える幸世…。
ここで何故、僕が一番号泣したか?? それは、僕も全く同じシチュエーションに数年前に陥った経験があるから…。自分と趣味感性が全く違う一般的で普通の綺麗なOLにモノ珍しがって頂き付き合ったものの、一方的に疲れて切ろうとしていたんですな。もちろん世の中、そうは簡単に問屋は卸してくれない。ある夜、見事に作業場まで駆けつけられてしまったのです。そして作業場から道路への薄暗い抜け道を歩き、電話予約で呼んでいたタクシーに乗ろうとした瞬間、後ろから猛然とタックルをかまされ、押し倒され泣きじゃくられた…。いつもお世話になっているさくらタクシー運転手さんの「鈴木様~、鈴木様~!!!!」という動転した声と、彼女の「『待って!』って言ってるでしょ~!!!!」という狂気に満ちた声が、夜道に気持ち悪くハモり、そして虚しく響く…。未だに思い返しただけでもサブイボが出て、恐怖で脅えてしまう。あれこそが真の怪談。てなわけで、夜のトンネル道は忘れられない迷シーンとなったのです。
最後まで読まれた方、どうですか?? 吐き気に眩暈で倒れてませんか?? 最近ね、軽く笑えたり、軽く泣けたり、軽く考えさせられるだけの箸にも棒にもかからないユルくてヌルいライターの文章が多すぎるんですよ。たまには、こんな情念たっぷりで喜怒哀楽が激しい文章もいいんじゃないですか。えっ、「もう勘弁…」だって? ごめんさいね、残念ながら不定期ではありますが更新連載されるんですよ、この「鈴木淳史の『WEBサイト作るから何か書いて』と言われたので書いてみますコラム」。という事で、末永いお付き合いを今後とも宜しくお願いします。おあとがよろしいようで。