文 : 鈴木玲子

鈴木玲子

鈴木玲子

すずきれいこ●65歳の関西在住主婦。学生運動に参加せず、学食でひとりボブ・ディランを弾き語った青春時代。大学では、フランス文学を専攻。卒業後、'70年の万博でのコンパニオンや海外生活を経て、現在は出来の悪い息子(ライター鈴木淳史)と出身地の芦屋で暮らす。労働後のライブハウス出没率高し。愚息イベント「SUZUDAMA~鈴木魂~」では、フランス語による前説を無理やり4年連続で披露させられている。Twitterは、@reikookanで呟き中。

Fri.9.Aug.2013

デラシネ

 6月に66歳になり、若者たちに「ロックロック歳」と祝ってもらった。思ってもみなかった程、長生きをしたものだが、逆から言えば、終焉に一歩近づいた訳である。

私には今まさに終焉を迎えようとしているひとりの友人がいる。出逢いは、1970年万博。つば広の大きな黒い帽子の彼女は、まるで黒アゲハ蝶の様だった。それ以来の付き合いで、もう43年になる。その後、私はヨーロッパへ、彼女はアメリカへ。私はすぐに帰国したが、彼女はとうとうアメリカ人になってしまった。ここ何年か日系一世の介護を始めていた。一世の人々は、とてもきれいな日本語を話すそうだ。しかし、彼等の孫は、もう日本語を話せないらしい。そんな彼等の終焉に、彼女は何度か立ち会ったそうだ。その本人が今、自分の終焉に向き合っている。

阪神淡路大震災、この度の東日本大震災の時、日本人は暴動も起こさず、節度ある姿勢であった事をアメリカの人たちは称賛していたそうだ。彼女は自分が元々、そんな日本人である事を誇らしく思ったと言っていた。そして、日本国民に大きな同情と援助を申し出たアメリカ国民の一員になっている事も誇らしいと話していた。

昨年夏、私が懇意にしているバンドがアメリカツアーに出たおりの事、ロングビーチというライブ会場場所に、彼女は高速を30分車で走らせて、日本食のお弁当を差し入れしてくれたりもした。

「私には、もうミッションが無いの…」と話す彼女…、私には答える言葉がない。元来、何事にも執着の薄い彼女なのだが、その電話の声に「異邦人の哀しみ」を感じる。若くエネルギーに溢れている時の外国暮らしは楽しい。しかし、人生の夕暮れを迎える年齢にはきつくなる。

今年の7月、大阪郊外の服部緑地野外音楽堂でドーベルマン主催の野外イベントがあった。震災で亡くなった人々を想い、彼等が歌った「メメントモリ」に…、私の心は震えた。野音にはトンボに混ざって、黒アゲハ蝶が一匹ヒラヒラ舞っていた。

自分の人生の幕引きを準備している彼女は、こんな事もよく話している。「私は根無し草よ…」。遠く離れて何も出来ない私は椅子に座って、「デラシネ…、デラシネ…」と呟くしかない。

ARCHIVES

  1. ▷ Mon.22.Sep.2014 「僕とテレキャノとロフト。」
  2. ▷ Tue.1.Apr.2014 「ABCラジオの時間。」
  3. ▷ Thu.9.Jan.2014 「たまたま埼玉」
  4. ▷ Wed.8.Jan.2014 「モテキ2014」
  5. ▷ Thu.12.Dec.2013 「冬の終わり~その時、ボクのハートは盗まれた~」
  6. ▷ Tue.3.Dec.2013 「少女A~中で学ぶ~」
  7. ▷ Mon.2.Dec.2013 「SUZUDAMA2013」
  8. ▷ Wed.16.Oct.2013 「Suzudama Times完成」
  9. ▷ Tue.15.Oct.2013 「一生忘れられない歌」
  10. ▷ Thu.15.Aug.2013 「サマージャム’13」
  11. ▷ Sun.4.Aug.2013 「8月8日は、『パプアニューグリラ祭』です♪」
  12. ▷ Mon.22.Jul.2013 「ほんまもんのレストラン」
  13. ▷ Thu.18.Jul.2013 「夏にして彼を想う」
  14. ▷ Wed.3.Jul.2013 「めひかりくるり」
  15. ▷ Fri.28.Jun.2013 「ギラギラ輝いていたヒマワリ…」
  16. ▷ Fri.21.Jun.2013 「オカンとピエールさんとマヤカン」
  17. ▷ Thu.13.Jun.2013 「50歳で出逢ったロックンロール」
  18. ▷ Thu.30.May.2013 「5月に捧ぐ」
  19. ▷ Wed.29.May.2013 「KING BROTHERSは不死鳥」
  20. ▷ Thu.16.May.2013 「雑誌広告のウワサの真相」
  21. ▷ Mon.13.May.2013 「日本語”プチ”研修中」
  22. ▷ Wed.1.May.2013 「レッドスニーカーズ×5月6日×シャングリラ」
  23. ▷ Fri.26.Apr.2013 「春の我が家の夕食」
  24. ▷ Fri.19.Apr.2013 「ほめてよ」
  25. ▷ Fri.12.Apr.2013 「離島に暮らす我が姪っ子」
  26. ▷ Sat.6.Apr.2013 「bloodthirsty buchers×KING BROTHERS」
  27. ▷ Fri.29.Mar.2013 「寅!寅!寅!」
  28. ▷ Thu.21.Mar.2013 「とりまきぐるぴ」
  29. ▷ Wed.20.Mar.2013 「太陽の塔」
  30. ▷ Fri.8.Mar.2013 「33」
  31. ▷ Wed.27.Feb.2013 「裏万博閑話」
  32. ▷ Mon.25.Feb.2013 「現場後記」
  33. ▷ Sat.16.Feb.2013 「タラモサラータ」
  34. ▷ Wed.13.Feb.2013 「ままぼく」
  35. ▷ Tue.5.Feb.2013 「ドナルド・キーン」
  36. ▷ Thu.24.Jan.2013 「いじめといじり」
  37. ▷ Thu.17.Jan.2013 「1月17日」
  38. ▷ Thu.10.Jan.2013 「古都からの若き刺客たち~2013年~」
  39. ▷ Thu.27.Dec.2012 「2012 BEST LIVE BAND」
  40. ▷ Thu.20.Dec.2012 「心のベスト10第一位は、こんな曲だった~2012年~」
  41. ▷ Wed.12.Dec.2012 「国境とパスポートと私」
  42. ▷ Wed.5.Dec.2012 「What’s Up, Woody Allen?」
  43. ▷ Wed.28.Nov.2012 「パリへの道中」
  44. ▷ Thu.22.Nov.2012 「後60分…」
  45. ▷ Wed.14.Nov.2012 「ハテナをミキサーにかけて」
  46. ▷ Fri.9.Nov.2012 「耳鼻咽喉科」
  47. ▷ Wed.31.Oct.2012 「”マヤカン”は遠くにありて思うもの」
  48. ▷ Wed.24.Oct.2012 「ライナー&ノーツ」
  49. ▷ Wed.17.Oct.2012 「2作目は機関銃を持って…」
  50. ▷ Wed.10.Oct.2012 「ラーメン!つけ麺!実母そうめん!」
  51. ▷ Wed.3.Oct.2012 「イライラをミキサーにかけて」
  52. ▷ Wed.26.Sep.2012 「そうだ!10月5日金曜日は、梅田クアトロの『SUZUDAMA’12~鈴木魂~ 新座長襲名公演』へ行こう!!」
  53. ▷ Wed.19.Sep.2012 「ランゲージとカルチャー」
  54. ▷ Sat.15.Sep.2012 「モテてんじゃねぇよ!モノ珍しがられてんだよ!」