文 : 鈴木玲子
Mon.22.Jul.2013
先日、東京出張をチャンスとばかり、かねてからの念願であったイタリアンレストラン『AMENO』(アメノ)に行って来た。渋谷からバスで10分、三軒茶屋と下北沢の間くらいにある。白壁のこじんまりした店は、二方が窓で明るい。無駄な装飾のない品の良い店内。入口は坂道のバス通りに面し、自転車に乗る人は腰を浮かして登って行く。坂道には特別な想いを持つ神戸っ子の私には、このロケーションも嬉しい。そして、オーナーシェフは中々のグッド・ルッキン・ガイ。余談ではあるが、とあるバンドマンの弟さんだそうだ。
さて、黒板に書かれたメニューと云えば、選択に迷う程の品数。こんな時は、シェフに尋ねるのが一番。姉夫婦、愚息に私の4人前の献立。サラダとシェフ手作りのパンが、まずテーブルに並ぶ。
一皿目 イサキのカルパッチョ
イサキって、こんなに美味しい魚だったけ? 最後の一切れに、4人の視線が集まる。お皿に残ったソースは、パンで拭きとって食べてしまう。
二皿目 フランス産ホワイトアスパラガス
生ハムが添えられ、その上で半熟卵がぷるぷると震えている。それをフォークで突つくと、とろりと黄身が溢れる。
三皿目 北海道産生うにとイタリア産カラスミと青森産ニンニクの手打ちパスタ
ウニのパスタが美味しいと愚息から聞いてはいたが、「聞きしに優る」とは、この事。「オカワリ!」と言ったら、嫌がられるだろうか?
四皿目 小笠原産姫鯛の香草パン粉焼き
これは小笠原諸島の父島に住む姪に敬意を表してのチョイス。皮がカリッと焼き上がっているのは勿論の事、身は真鯛のあの堅さは無く「姫」と付くだけあって、ふっくりと優しい。
五皿目 ピスタッチオのジェラート・ババロワ・ティラミス
デザートはピスタッチオのジェラートふたつ、ババロワ、ティラミスが盛り合わせに様に大皿に乗せられる。シェフのプレゼントのチーズケーキも。私たちは全てを味わい尽くし、顔を見合わせニンマリ。ピスタッチオの濃厚さ、ババロワの口の中で溶けてしまうなめらかさ。これまで、ちょっと軽く視ていた私の認識がすっかり変わってしまったティラミス。チーズケーキも同様で、また好物が増えてしまった。「甘いものは甘く」という持論の私は大納得。
爽やかな苦味のコーヒーで、口の中も胃の中もさっぱりさせて、私たちのランチは終了した。美味しいものは、味覚と胃だけではなく心を満たしてくれる。「人の心を掴みたければ、胃を掴め」とは、よく言ったものだ。この店のシェフは食材を生かす事に喜びを感じ、それに生来のセンスでアクセントをつけ、一皿一皿を手際よく仕上げる。その料理を愛してやまない心は、自ずから客に伝わる。それが食事を終えた客の満足感になるのだろう。この店は大阪弁で言う『ほんまもん』のレストランだった。次回は、是非ともハードタイプのチーズでフィニッシュしたい。シェフよろしくお願いします。
蛇足
長らく金融業界にいた義理の兄は「あそこまで食材にこだわると利益は非常に薄いのでは…」と心配し、姉はというとライブハウスの如くトイレに飾られていたSCOOBIE DOのポスターについて「トイレに貼ってあるのは可哀相…。壁にスペースがあるのに…」と武蔵小杉の家に着いてからも、それぞれAMENOについて想いを巡らしていた。