文 : 鈴木淳史
Thu.20.Dec.2012
年の瀬になると「今年の10枚」みたいな企画をされる方が多くなる。優柔不断な僕は、学生時代から絞り込めず苦手だった。仕事として依頼されたら必死に選ぶだろうが、追い込まれなきゃ全く出来ない。
先日、とあるバンドマンが砂肝の炒め物をつつきながら、ふと僕にこう言った。
「鈴木さん、去年の3月11日以降でグッときた曲はありますか?」
ひとつに絞る…、それも明確なテーマを提示されたら絞れる。
「アナログフィッシュの『抱きしめて』ですね」
僕は、そう答えた。
アナログフィッシュ「抱きしめて」は現時点で音源化されておらず、YouTubeでPVだけが公開されている。波が静かに押し寄せる砂浜の前で、メンバー3人がただただ佇むだけの映像。そして、優しく静かなメロディーが聞こえてくる。
危険があるから、事件が起きるから、遠いところへ静かな場所へ引っ越そうと歌われる。
畑と少しの家畜を飼って、人気のない場所で、二人で静かに生きていこうと歌われる。
「いつまで?」や「嫌だわ…」なんて言わないでと歌われる。
夏のライブで初めて聴いたとき、暗に3.11を匂わす歌詞に、このまま流れがひっくり返されなかったら、夢で終わるだけだと思った。ひっくり返して欲しい…、いや絶対にひっくり返されるんだろうなとドキドキしながら耳を傾けていた。
そして、見事にひっくり返される。
この世界に、どこにそんな場所があるのと問いかける…、もうここでいいから思いっきり抱きしめてと歌われる。
僕は、涙が止まらなかった。
何も具体的に声高に訴えないのに、強い気持ち強い愛が…、決意表明が…伝わってくる。
どこにいても、なにをしてでも世界は変わらないという諦観を持ちながらも、ここで生きる覚悟を感じる…、全く逃げていない…。
「もっと強く抱きしめて」という言葉が、いつまでも響く…。
アナログフィッシュの「抱きしめて」は、愛に満ち溢れた戦う男の歌だ。2012年の現在を、2013年以降の未来を描ききった歌だ。
2012年…、心のベスト10第一位は、こんな曲だった。
おあとがよろしいようで。