文 : amazarashi 秋田ひろむ
HP
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通常版
amazarashi
「あんたへ」
Thu.24.Apr.2014
VRヘッドセット「Oculus Rift」のOculus Rift社をFacebookが買収とのニュースに批判が巻き起こっているようだ。「Minecraft」のMojangもOculus Riftの公式なサポートを中止と発表。ゲームファンは肩を落としている。
Facebookにはなんの恨みも無いし、僕らも普段からお世話になっているのだが、Oculus RiftのそもそものスタートがクラウドファンディングKickstarterでのゲームファンからの出資であり、ゲームファン自身が夢を託したデバイスであったからこそ、大企業の資本にあっさりと飲み込まれてしまったようで落胆してしまうのだ。
ゲームデバイスという物は中々一般的にはなりにくいし、プレステのPlayStation MoveやXboxのKinectですら、未だゲーマーだけが買うガジェットという印象しかない。ましてやPCゲーム向けのヘッドマウントディスプレイなど、ほんの一握りのゲームファンだけが望むものだった。そういうニッチな分野だからこそ、革新的なOculus Riftの登場は希有であり夢があった。ゲームファンが支えなければ、という使命感もあったのかもしれない。
とは言っても落胆していてもしょうがない。Oculus Riftが終わった訳ではないし、ソニーもVRヘッドセットProject Morpheusを発表したし、ゲームの未来はそんなに暗い訳じゃない。新しいゲーム体験に僕は胸を躍らせている。
今月は4月10日に発売された「魔都紅色幽撃隊」を遊んでいた。「東京魔人學園」シリーズや「九龍妖魔學園紀」の今井秋芳監督の最新作という事で、「九龍妖魔學園紀」からの今井秋芳ファンである僕は発売日に購入した。ちなみにPS3版とPSVITA版があるが、今回はPSVITAダウンロード版でプレイした。
今井秋芳監督のゲームは「学園伝奇ジュヴナイル」と呼ばれるくらい、作風が割とはっきりしている。学園を舞台にした青春群像劇と、オカルトや神話、古い伝承や宗教などをごちゃ混ぜにした少年漫画のような世界観が特徴だ。
今作は幽霊退治が主題のようで、東京各地に現れる幽霊の謎を追うテキストベースのアドベンチャーパートと、ゴーストバスターズよろしく幽霊退治を行うシミュレーションパートを繰り返してゲームは進む。一話完結のドラマやアニメのようなストーリー進行や、アドベンチャーパートでの「感情入力システム」など、監督の過去作を踏襲している場面が多数あって、昔からのファンはニヤリとできる。
僕が今井秋芳監督作品の何を好きになったかと言うと、ゲームシステムの部分をゲーム世界観の地続きで説明している部分だ。
例えば今作の戦闘画面は“ウィジャパッド”と呼ばれる、まるでiPadのような端末の画面で進行する。シミュレーションゲームによくある見下ろし型の升目マップも、これなら違和感がない。デフォルメにも理由付けがちゃんとしてあるのだ。
キャラクターのステータス画面も履歴書になっていて、主人公達が“夕隙社”と呼ばれる会社のアルバイトである事を踏まえている。クエストは会社のパソコンのウェブページで受注して、その後バイク便が詳細な見取り図を配達してくれたり、戦闘前のBGM選択はカーステレオでカセットテープを差し込む演出があったり、ゲーム的なお約束も全て世界観の中で説明してくれる。そこにはゲームに対しての愛があるようで、僕は嬉しくなってしまうのだ。
昔のゲームにとってのデフォルメとは避けては通れないものだった。ファミコンやスーパーファミコンの時代は少ない容量の中、どうやってプレイヤーに理解してもらうかの苦肉の策だったはずだ。ドラクエの勇者は二頭身だったし、城の大きさは勇者4人分だった。RPGのエンカウント戦闘も、コマンド選択も、ステータス画面の数字の羅列も全てデフォルメだ。でもそれらはいつのまにかお約束となり、僕らの頭に刷り込まれている。強くなるという事はレベルが上がる事で、シミュレーションゲームは一人ずつ順番に行動すると信じきっている。
ゲームハードの性能が格段と高くなり、ゲームにおいてデフォルメはもう必要なくなった。勇者の毛穴や血しぶきまで描き出せるし、○ボタン一つで剣を振れるはずだ。だが、ゲームのお約束だけが僕らの頭に残されていて、大抵のゲームは僕らの頭の中にあるお約束に頼って作られている。今更誰もレベルの意味なんて説明しなくても分かっているからだ。
もちろん、そのお約束の完成度が高いからこそ、楽しいからこそ、今でも残っているのは理解できる。ドラクエが今でもコマンド戦闘なのには僕も大賛成だ。ゲームだから面白ければ勝ちなのだ。
だが“面白ければ勝ち”のゲームの世界で、わざわざ「何故このデフォルメがされているか?」を作品中に説明し続ける今井秋芳監督は作品への愛があり、プレイヤーへの愛がある。僕は改めて監督にリスペクトを送る。
その他、ロックへの偏愛がそこかしこに垣間見えて嬉しかった。章ごとのタイトルが古いハードロックへのオマージュだったり、BGMが生音で録音したというバンドサウンドだったり。
ラストに好感度が一番高いキャラクターがやって来てエンディングを迎えるようだが、僕の場合何故か小太りのロックンローラー小菅春吉だった。
ちなみに、作中にライブハウスが出てくるのだが、そこが僕が昔のバンドでお世話になった渋谷kinotoだったので嬉しくなった。昔ライブをやってたライブハウスで幽霊退治もおつな物だ。