文 : amazarashi 秋田ひろむ
HP
http://www.amazarashi.com/初回限定盤
[DVD・文庫本ブックレット付]
通常版
amazarashi
「あんたへ」
Thu.20.Mar.2014
設備ドックにドッキングを終えて一息つく。テラン軍の追撃を逃れ、どれほどのセクターを越えて来ただろう。このM6型コルベット艦ケンタウロスの薄汚れた窓を覗けば、僕の拳ほどの青白い星がぼんやりと浮かんでいる。僕はこれまでの旅路を独り想う。
僕はようやく地球に帰って来たのだ。
2011年にEgosoftより発売された「X3: Albion Prelude」に夢中である。ジャンルで言えば“スペースコンバットシム”という事になるのだろうか。2938年の宇宙を舞台にしたオープンワールドのサンドボックスゲームだ。かなり自由度の高いゲームで、戦闘や貿易、採掘、要塞や工場の建設などを、一人のパイロットの視点から行う事が出来る。一応ミッションクリア型のストーリー的なものも申し訳程度にあるのだが、それを一切無視して自由な宇宙生活を送る事が出来るのが大きな楽しさだ。
昨年の春頃このゲームの前身である「X3: Terran Conflict」を購入してからちまちまと遊び続け、今現在でも追加コンテンツ的な位置づけであるこの「Albion Prelude」を遊び続けている。恐ろしく懐の深いゲームだ。
ゲーム好きな人の為にどんなゲームか分かりやすく説明するなら、広大な世界を旅するという意味ではOblivionやSkyrimなどのTESシリーズに近いかもしれない。安く買って高く売るという貿易要素などは「大航海時代」や「Port Royale」にも似ている。頼りない装備から一人世界を舞台に立身していく感覚などは「太閤立志伝」や「Mount & Blade」の様だ。
膨大なデータ量と、相互作用する経済や戦闘AIは宇宙という舞台にふさわしい広大さを持ってプレイヤーに立ちはだかる。“攻略できるものならしてみろ”と言わんばかりの敷居の高さは弱点でもあるが、ある種の偏固なマニアにとっては、とてつもない長所たりえる。
例えばSF作品の性質上しょうがないかもしれないが、固有名詞の分かり辛さがまず導入部分から障害となる。“インパルスレイエミッター”と“ポイント特異点プロジェクター”が何なのか分からない。それがレーザーの射撃武器だと分かったとしても、どちらがどんな武器なのか頭にぱっと浮かぶ人はそう居ないだろう。“銅の剣”と“はやぶさの剣”なら“はやぶさの剣”を選ぶでしょ、とはいかないのである。
操作性の煩雑さも否めない。このゲームは自分が所持する別の宇宙船に命令して、自動交易をさせる事が出来るのだが、その為の操作が分かりにくい。
「まず画面左側の個人タブを選んで、そこから所有物をクリック、交易させたい宇宙船を選んで、命令タブを選択、その中からコマンドコンソールを開いて交易をクリックして……」ってもの凄く面倒くさい!だがそれは、膨大な命令系統を有している事の裏返しでもある。自分で数十隻からなる巨大艦隊を指揮して宇宙を闊歩したいのだ、というプレイヤーにとっては操作の煩雑ささえ魅力的に映るだろう。
なにより真っ暗な部屋でキーボードをカチャカチャ叩いていると、さながらコックピット内で遠くの艦隊に伝令を送っている様ではないか。この没入感というか、パイロットとのリンク感はたまらない。
僕の個人的なお勧めポイントも書き加えるなら、グラフィックの美しさだろうか。元となる「X3: Terran Conflict」の発売が2008年だから、今現在最先端のゲームと比べると見劣りするのだが、宇宙セクターごとに特徴ある空間の表現は美しい。自軍の本拠地には明るい星が浮かび、クリアな青色の明かりが安心感をもたらしてくれるし、小型の隕石が飛び交うセクターや、“もや”がかかり視界不良なセクター、真っ暗な宇宙空間に超巨大な惑星がぼんやり浮かぶ様などは、未だ見ぬ宇宙に対する畏怖の念すら感じさせ、鳥肌が立つほどだ。それらがSFゲームお決まりのアンビエントなBGMと相まって、独特な心細い宇宙の旅を表現している。
そして何より物語の終盤、初めて地球に辿り着いた時の感動といったら。
これらの素晴らしい表現があるおかげで、ただの数字のやり取りをするストラテジーやシミュレーションに終わらない、自分の旅路を紡ぐゲームになっているのだ。是非自分だけの宇宙物語を楽しんで欲しい。
旅路という事で言えば、我々amazarashi初のミュージッククリップ集「anthology 1386」を3月26日に発売予定である。amazarashiがデビューしてからの全てのミュージッククリップがおさめられた僕らの旅路の軌跡とも言うべき映像作品だ。特典としてライブ映像も入っているので、是非僕らが歩んで来た道程を映像と共に体感して欲しい。
以上、こちら地球の秋田からでした。