TSUREZURE WEEDVOL.12
ハルカトミユキの影響かな?久しぶりに岩波新書の『折々のうた』を本棚から取り出してみた。これは’79年1月〜’07年3月まで朝日新聞の朝刊1面に連載されていた詩人:大岡信による詩歌のコラムを集めたもので、およそ1冊が1年分ということでかなりの巻数があった筈。高校の頃、アメリカン・ニュー・シネマ好きのサブカル文学青年みたいな先輩が読んでいて、その影響で手にしたと記憶している。内容的にはほぼ短歌、俳句が中心で、任意に1句を選び、そこに大岡信が180字という制約のもと適切な批評を付すと言う今のツイッターみたいな連載で、そのハードコア・パンクの如きシンプルな構成が魅力的だった。頭から最後までみっちり読破するというよりは、パラパラとページを捲りながら気になった句を見付けて読むみたいな。短歌、俳句、そして解説を含め寧ろ制約があるが故に研ぎ澄まされたその鋭利な言葉の感触には、有名無名の歌人からよみ人しらずまで随分と感銘を受けた。今回久々に手にしたのは同シリーズの第七巻。1句、引用してみたいと思う。
屈辱や疲労もやがてなじみゆくわがししむらの闇をうたがふ 島田修二
「ししむら」とは肉のこと。大岡信の解説によれば、屈辱や疲労、そんな不快な出来事さえ飲み込んでいつのまにか耐えうるものにしてしまう肉体、つまり人間の「闇」のからくりに感嘆しながらいぶかしんでいるのだそう…。ハードコアです。
そういえば大学時代好きだった女の子がいて、その子の友達が確かご両親が懇意とかで大岡信に命名された女の子で、「紅」とかいて「こう」と読むって話を聞いて素敵な名前だなと感じたのを思い出しました。
文庫になってたので久々に読み返してみた。
ホイチョイの馬場さんの名著『「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た!』やっぱり文庫で読んでもめちゃくちゃ面白い!昨今一部でキャリアポルノとも揶揄される自己啓発系ビジネス本とは訳が違う。本当にこの時代の広告代理店やテレビ、マスコミのおじさん達の話って面白い!特にここで描かれている小谷正一って言う人は本当に最高!井上靖の小説のモデルになるような人なんだけど超魅力的!エンタメ云々抜きにして濃厚な人間の生きざまを描いた良質なドキュメンタリーとして一読をお勧めする。
その流れで上述の小谷正一が大阪万博の時、スタッフとして呼び寄せたあのレストラン「キャンティ」のオーナーにして希有な国際人といわれた川添浩史とその妻、梶子、その生涯と三島由紀夫、安部公房、黒沢明、岡本太郎、小沢征爾、篠山紀信、加賀まりこ、安井かずみ、かまやつひろし、ビートたけし、坂本龍一、村上龍、松任谷由実…当時の「キャンティ」を取り巻くお客さんたちの青春を描いた長編ノンフィクション『キャンティ物語』も読破。これも凄い話。つまりレストランというよりもむしろ仲間が集うサロンのような存在としての「キャンティ」を舞台にした和製グレート・ギャッビーとでも言うべき川添夫妻の物語。60年代当時、海外で何の職にも就かずフラフラしてて、その時の交友録からカメラマンのロバート・キャパやダリと友達になった日本人って凄いものがある(笑)川添夫妻と時代はちょっと違うけど今やポータークラシックの吉田克幸さんがよくインタビュー等で話している、若い頃ロンドンでただ何もしないで毎日遊んでたって話もそうだけど、川添夫妻や吉田克幸さんみたいに、かつて海外の空気、文化を全身で吸収しまくったボンボンたちの、その息吹が日本の近代化に深く静かに影響を与えてたことを実感するエピソード満載。そしてタンタンの愛称で親しまれた妻、梶子のファッション・アイコンとして、ファムファタールとしての魅力はこの時代においては極めて鮮烈であり強烈。決してクリエイターではないのだが、今で言うプロデュサー、もしくはスタイリストやDJ的な感性を有した人たちだったんだなと思う。実際、当時、グループ・サウンズのタイガースの衣装を、今で言うスタイリストの役回りで梶子が手掛けていたエピソードも記されている。当時「キャンティ」に集まる何をしたらいいのか模索している若くて無名の才能を信じ、まるで自分の息子や娘のように惜しみなく愛情を注いだという川添夫妻の、これはもはや伝説!
次はキャンティ繋がりで、作詞家であり当時のファッションリーダーとしても知られるZUZUこと安井かずみ。キャンティの常連であり、梶子に心酔していたという彼女の素顔に迫る『安井かずみがいた時代』を読もうと思ってます!
Fri.20.Sep.2013