TSUREZURE WEEDVOL.09
先日、命日である1月31日、都内某所にて川勝正幸さんの一周忌の会が行われた。一周忌と言っても決して堅苦しいものではなく、親しかった面々が概ね平服で集まり、あの川勝さんの笑顔を思い出して語り合おうという素敵な会であった。
そこで参加者全員に配られたのが昨年1月31日の急逝後、入手困難になっていた川勝さんの代表作『ポップ中毒者』シリーズ3部作、第1弾の待望の文庫版だった。
単行本は勿論3冊とも所有しているものの、今回文庫版のボーナストラック的に付記されているあとがき代わりの小泉(今日子)さんのインタビューを楽しみにしてて、まさに購入しようとしていた矢先だったのでとても嬉しかった。
さらに会場で友人のビクターのディレクター、チュウバッカこと石田くんから「薮さんの名前も出てましたよ!」と言われ「何故?」と思い、家に帰ってから早速そのインタビューに目を通してみた。
読後思わず泣いてしまった。それは小泉さんも書いているように「あの頃の甘酸っぱい記憶」が沢山蘇ってきてしまったから。小泉さんが言うように、まさに卒業アルバムのようにこの本に収められた86年から96年の「約10年分」はこの時代に青春を過ごした全てのボンクラたち、宝島キッズたちの「約10年分」と言っても過言ではない筈だ。ここには紛れもないあの時代の青春の息吹のようなものがギッシリ詰め込まれている。急逝直後、TBSラジオDIGの川勝さん追悼番組で大根さんが僕のメールを紹介してくれた。その内容は僕が川勝さんに初めて会った時のエピソード。僕はかつて大学時代から何となく働いていた編集プロダクションを辞めて暫くプー太郎をして当時の相模大野の実家でやることも無く昼間っから母親と水戸黄門を見てた時、岡崎(京子)さんから電話をもらい「写真展の手伝いをするなら京都に連れてってやるぞ!京都の清水寺に泊まれるぞ!」と誘われ勿論断る理由もなく二つ返事でOKし、京都の清水寺、それも数年に一度しか公開されないという成就院で開催されたあのデニス・ホッパー写真展のお手伝いをしたことがある。川勝さんと会ったのはそれが初めてで何処の馬の骨とも解らない僕を皆が川勝さんのアシスタントか何かと勘違いして困ったのを覚えてる。写真展の管理という名目で川勝さん、岡崎さんと三人で春とは言えまだまだ寒い京都、成就院の畳の上で雑魚寝をしたのも今となってはいい思い出だ。その時の僕はまさか自分がレコード会社に入ってスチャダラパーの担当になり、川勝さんと『今夜はブギーバック』を一緒に作ることになるなんて全く想像すら出来なかった。当時の小泉さんを取り巻くスチャダラパー、ビブラストーンやJAGATARA周辺、ASA-CHANGやスカパラ、ソウルセットやチエコビューティ、A.K.I、(いとう)せいこうさん、高城剛(確かスパイク・リーとかサンキ・リーに似てたから高城リーって呼ばれてたような記憶がある)、エド(ツワキ)、(高木)完ちゃん、(藤原)ヒロシくん、岡崎(京子)さん、(桜沢)エリカちゃん・・・それはそのまま僕にとっての「約10年分」の交流網でもあり、そのままこの『ポップ中毒者』で川勝さんによって発見されたあの時代のカルチャーそのものなのだ。まだ何ものでもなかった僕らを見つけて、そして誉めてくれた、紹介してくれた「目利き」、それが川勝さんだったんだと思う。
2013年、川勝さんがいなくなって初めて気付くことがある。それは川勝さんの代わりは誰もいなかったのだと言うことを。
インタビューの中で小泉さんは僕が担当していた(藤原)ヒロシくんとYO-KINGによるユニットAOEQの、2011年8月に行われた下北沢・北沢タウンホールのライヴで川勝さんに会ったのが最後になってしまったと話していた。
最後に小泉さんはこう語っている。
『そういえばあのころ「小泉さんが50歳になったら新宿コマ劇場で座長公演をやりましょうよ」って川勝さんが提案してたっけ。もうすぐなんだけどなあ』(『ポップ中毒者の手記(約10年分)』文庫版あとがきより抜粋)
そういえば川勝さん、(藤原)ヒロシくんの『丘の上のパンク』、通称丘パンこと『時代をエディットする男、藤原ヒロシ半生記』の最終章にAOEQの章を足して電子書籍化するって言ってたのになあ…。
一周忌の会で流れていたおそらくタケイグッドマンが編集したSSTVの往年の映像、そこに映る川勝さんの姿が思っていた以上に若くてビックリした。文庫版の表3のカヴァー折り返しのホンマタカシによる川勝さんの写真も若い。この時の川勝さんは40歳。今の僕より7つも若かったのかー。そして新宿コマ劇場も無くなってしまった。
I MISS YOU.
”川勝正幸
冨田勲って皆さんは知ってますか?
僕ら世代にとってはかつて日本版ウォルター・カルロスクラーク(後に性転換しウェンディ・カルロスクラーク、映画『時計仕掛けのオレンジ』のサントラの人)とでも言うべきMOOGシンセサイザー/電子音楽の世界的オーソリティ、現在のテクノの父みたいなアーティスト、偉大な作曲家として知られている。有名なところではNHKの『新日本紀行』とかみんなが知ってるあの『今日の料理』のテーマ曲、手塚治虫の『ジャングル大帝』『リボンの騎士』、僕の大好きな往年の特撮番組『キャプテンウルトラ』のテーマ曲も全部、冨田勲先生の作曲って知ってた?そんな冨田勲先生のライフワークとまで噂されていた宮沢賢治の世界をテーマにしたオーケストラと合唱のための『イーハトーヴ交響曲』が遂に完成し何と昨年11月23日、東京オペラシティにて初演されたのだ!これ個人的に凄く行きたかったのに全然チケットが取れずに残念な思いをした。何故そんなに見たかったかって?だって300人に及ぶ大管弦楽と合唱団を擁したこの公演に冨田勲先生が指名したメインシンガーが初音ミクだったからに他ならない。宮沢賢治のこの世のものとは言い難いあの異次元の世界を歌えるのは初音ミクしかいない!という冨田勲先生の強い希望によるものだと言う。そんな先生が1932年生まれ、現在80歳であるという事実は驚嘆に値する!何てポップな老人なんだろう!さらに驚愕すべき事実がある。それはこの公演では、初音ミクがドンカマやクリックではなく、何と大友直人氏の指揮、オーケストラや混成合唱団に合わせて歌って踊るということなのだ!そんな事って出来るんだ!前回の非常階段に次いでの初音ミクネタではあるもののそんな驚異の冨田勲×初音ミクの組み合わせによる同公演のライヴCD『イーハトーヴ交響曲』が遂に発売された。映像が無いのがちと残念ではあるものの音源だけでもかなり素晴らしいドープな内容になってます!そんな時、リリースに合わせてNHK Eテレでこの公演の特集『音で描く賢治の宇宙~冨田勲×初音ミク異次元コラボ~』(http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2013/0203.html)が2月3日にオンエアーになったのだ!これが物凄く面白い!CDを聞くだけでは解らない、初音ミクをオーケストラの指揮に合わせる事がどれだけ困難なことだったのか?そのプロセスがドキュメンタリーとして克明に描かれている。決して妥協を許さない冨田勲先生の無邪気で無謀なリクエストに、真摯に一生懸命答えるスタッフの熱意に感動!震災以降の東北を見据えた幻想的且つ力強くもエモーショナルな美しい交響曲と初音ミクの共演の素晴らしさは言うまでもない。ただ個人的にはCDに収録されているアンコールの冨田勲先生のあの名曲『リボンの騎士』を歌う初音ミクにまたしても泣きそうになった。岡崎(京子)さんが手塚作品である種一番エロいって言っていたトランスジェンダーな男装ファンタジー『リボンの騎士』を歌う初音ミクをアトムやウランの産みの親でもある手塚治虫先生に見せたかったなー!こんな未来ばっかりだったら良かったのに。今のこの国を思ったらまたまた泣けてきた。
”冨田勲
編集協力をアーバンの臼井さんがしているということで、新潮社から都築響一『ヒップホップの詩人たち』を送って頂いた。これ密かに相当楽しみにしてました!多分、今の自分のヒップホップ熱再燃も昨年からの田我流ブームもこの本のベースになっている新潮連載の『夜露死苦現代詩2.0 ヒップホップの詩人たち』を抜きには語れない。都築さんの以前の著作『夜露死苦現代詩』においてもヒップホップに言及しており本作にいたる片鱗を見せてはいるものの、本格的にはここで紹介しているような日本の寂れた地方都市在住のラッパーたちに出会い、より深みにハマったに違いないと思わせる程筆が踊っているのを感じずにはいられない怪著。それはほぼ時を同じくして富田克也監督が甲府のシャッター商店街を舞台に、山梨県一宮町代表のラッパー、田我流を筆頭にするスティルイチミヤを役者に据えて映画『サウダーヂ』という物語に命を宿らせたように、菊池成孔さんがSIMI LABをはじめとする日本のヒップホップに傾倒し、自身のアルバムにSIMI LABをフィーチャーしたように、時代の必然とでも言うべき奇妙なシンクロニシティをここに感じる。この糞みたいな時代が彼らを必要としているのは紛れもない事実だ。ウェッブサイトも面白かったが、この分厚い一冊に凝縮されているのはシャッター商店街のギンズバーグやバロウズ、ケルアックたちの言葉、音源から入っている僕としては、ゆっくり酒でも飲みながら、敢えて新しい活字文学としてこの言葉たちを堪能させて頂こうかな?
地方在住の若手のみならず、THA BLUE HERBのBOSSくんやTwiGy、ANARCHY等これまでシーンを切り開いてきたパイオニアたちの言葉も収録。
『政治家の方がよっぽどギャングスタじゃねえか!』とは『サウダーヂ』劇中の田我流の台詞。この国の子供達を救うのは案外、ここにあるヒップホップの詩人たちなんじゃないかと本気で思う今日この頃。
以前出版された『文科系のためのヒップホップ入門』同様、本書も音楽系のフィールドからの刊行じゃないことが重要なポイントのように思えてならない。
”都築響一
つづく
Wed.6.Feb.2013