Sat.19.Oct.2013

藤原ヒロシ×YO-KING

interview & text by 小野田 雄  photo by 柴田恵理

藤原ヒロシ

藤原ヒロシ

音楽プロデューサーにしてアーティスト。’80年代からDJとして活動。
‘90年代からは音楽プロデュース、作曲家、アレンジャーとして活動の幅を広げる。 ‘11年よりAOEQやソロでの演奏活動を活発に行っている。
またストリートカルチャーの牽引者としての顔を持ち、 ファッションの分野でも若者に絶大な影響力を持つ。
2013年10月16日にHFソロ名義では久々となるフルアルバム「manners」 をリリース。

http://fatale.honeyee.com/blog/hf/

http://www.hf-manners.com

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DJとして、小泉今日子やUAの楽曲を手掛けてきたプロデューサーとして、はたまた東京のカッティング・エッジなストリート・ファッションを国内外に広く紹介してきたカルチャー・アイコンとして、長きにわたって活躍してきた藤原ヒロシ。近年はDJ活動から引退し、ギターとマイクを手にライヴを行い、真心ブラザーズのYO-KINGとのユニット、AOEQとして2011年に『think』と『think twice』という2枚のアルバムを発表した直後から制作をスタートさせたソロ・アルバム『manners』がついに完成。そのリリースを記念して、藤原ヒロシと、彼が作詞の面で大きな影響を受けたという真心ブラザーズのYO-KINGによる対談を行いました。

──新作『manners』はプロデューサー、トラック・メイカーとしてだけでなく、ご自身が作詞とヴォーカルを手掛けられたエポック・メイキングな作品ですが、こと、作詞に関してはYO-KINGさんが先生にあたる存在だとか。

藤原ヒロシ「そうなんです。YO(-KING)さんと出会うまで、歌詞を書いてみたいと思ったことが一度もなくて。でも、2人のプロジェクト、AOEQをやるようになって、「オリジナルを作りましょう」という話から「前半は僕が書いてきたので後半お願いします」と半ば強制的に歌詞を書かされて(笑)。その後、YOさんには塾の先生のように、作詞のやり方を教えてもらったんですけど、それをきっかけに「こういう感じで書けばいいんだ」って思えるようになったことで、自分一人でも歌詞を書くようになったんです」

YO-KING「でも、僕から言わせると、ヒロシさんは今まで作詞をやってなかっただけなんですよ(笑)。だって、初めてお題というか宿題を出したら、すぐに歌詞が出来てきましたからね。まぁ、音楽にまつわることは作詞以外、一通りやってきた人ですから、トライすれば作詞も出来たはずなんですよ。でも、実際のところはやってなかったし、やりたいとも思ってなかったっていう(笑)」

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──ヒロシさんが作詞を始めるきっかけはYO-KINGさんだったんですね。

YO-KING「ちょうどタイミングが合ったんですよね。レコーディング目的ではなく、ライヴのためにオリジナルも作りましょうっていう話から、AOEQの『think』ってアルバムの1曲目に入ってる「fun days」を作ったのが最初でしたよね」

藤原ヒロシ「あの曲ははじめに僕が作ったトラックを渡したら、YOさんから前半部分の歌詞が、読めないような字で返ってきて「後はよろしく」って(笑)。だから、例題を参考に答えを考える小学生の参考書のように、前半の歌詞とその譜割を踏まえつつ、自分でもやってみたっていう。それまで歌詞はもっと真面目なものというか、ちゃんとしたメッセージや自分の思いを伝えるものだと思い込んでいたんですけど、YOさんが書いた「pink cloud」では「雲に乗って~」って歌ってるから、「この歳でピンクの雲に乗っちゃってもいいんだな」って思ったし、歌詞って、もっと簡単な、いい加減なものでもいいのかもって(笑)」

YO-KING「(笑)確かに僕はちょっと特殊というか。同じ世代の他の人が書かないような、ちょっと恥ずかしいこと、エッセイや会話ではためらうことも歌ならいいかなって感じですからね」

藤原ヒロシ「僕の場合、エッセイでも、他の手段でも、自分の意見が人に伝わる感覚が恥ずかしいんですよね。だから、僕の歌詞は誰か主人公を立てて、その人が言ってることにして書くんです」

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──AOEQの曲でいうと、「夢の世界」や「john」はその手法で書かれた曲でしたよね。

藤原ヒロシ「そう。マイケル・ジャクソンをテーマに書いたのが「夢の世界」、チワワをテーマに書いたのが「john」だったんですよ。他に恋愛について書いた曲なんかもあるんですけど、それは僕の恋愛観ではなく、人の恋愛観だったりするし、今回のアルバムでも、例えば、AOEQですでに発表している1曲目の「colour」は14歳の殺人犯が書いた手紙の一節が頭にずっと残っていて、その一文をもとに書いたものなんですね。それから7曲目の「1978」は曲タイトルや帝国主義って言葉からパンクっぽいイメージがあるかもしれないけど、実はアルバニアについて書かれた本を読んでいたら、あの国は1978年に神を信じることを禁止して無神論国家になったという話があって、その話をもとに書いた曲なんです。だけど、今の世の中のムードにも当てはまったりパンクの時代を思い起こさせたり、色んな角度から受け取ってもらえるんじゃないかなって」

──同じように、8曲目の「stasi」という曲タイトルは東ドイツにかつて存在していた秘密警察から取られたものですよね?

藤原ヒロシ「そう。最初は恋愛の歌っぽく始まるんだけど、曲が進んでいくと、実は拷問についての歌になっていく(笑)」

──つまり、ヒロシさんご本人と一定の距離を置いて歌詞を書かれているんですね。

藤原ヒロシ「距離を置きつつ、そこに自分の意見をちょっと入れたりもして」

YO-KING「距離を置いて書いても、歌詞にはその人のパーソナリティが自然と反映されるものだから、どこまでが実際に思っていることなのか、どこまでがフィクションや演出なのか。そういう部分が聴き手にとって楽しかったりもするでしょうし。あと、上がってきたヒロシさんの歌詞を読んで思ったのは、歌詞を書くうえでその人が面白い人であるというのは前提として絶対大事なんですよ。そのうえで面白い歌詞が書けるかどうかというのが次の分かれ道なんですけど、ヒロシさんの歌詞はね、これが面白いんですよ(笑)。しかも、面白いだけじゃなく、「え!?」っていう、いい意味での驚きもある。僕は実際に会って話したり、一緒にライヴやったり、ご飯食べたりしてるからよく分かるんですけど、ヒロシさんは最初会った時から色んな提案をする人、ひらめきを積極的に口にする人なんですよね。音楽を作るにあたって、モードを切り替えれば僕にも出来るんですけど、ヒロシさんのように普段からアイディアやひらめきにあふれている人は自分の周りにはあまりいないかもしれない。そういうヒロシさんの人間性が他にはない歌詞に変換されて、会ったことのない人にも伝わるんだと思いますね」

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藤原ヒロシ「J-POPを聴いていても、歌詞が全く入ってこない曲も沢山あるじゃないですか? でも、何が違うのかは分からないけど、YOさんの歌はどの作品を聴いても歌詞が入ってくるんですよね。その点、自分の作品は自分で判断出来ないじゃないですか。でも、この間食事をした時、YOさんから、「歌詞が入ってきた」と言ってもらえたので、YO-KING塾からちゃんと卒業出来たのかなって(笑)」

YO-KING「巷にはちゃんと聴いたり、読んだりすれば、面白いこと歌っているのに、ぱっと耳に入ってこない歌も多いですからね。まぁ、それは歌詞だけでなく、ミックスや歌い方も大いに影響してるとは思うんですけど、ヒロシさんはAOEQの時点でとっくに卒業してますよ」

藤原ヒロシ「あとは歌詞の譜割とか乗せ方も大きいんじゃないですか。その辺のところはYOさんの真似をさせてもらったというか、YO-KING塾の奥義というか(笑)」

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YO-KING

類まれなる自己肯定力を兼ね備え、健康で楽しく暮らすことをモットーとする音楽芸人。
89年 大学在学中にサークルの後輩 桜井秀俊とともに真心ブラザーズを結成、同年9月にメジャーデビュー。02年からは、本格的にソロ活動をスタート。その他、藤原ヒロシとの弾語りユニット:AOEQ等、独自な活動を展開している。

http://www.yo-king.com