2013.05.31(金) 06.01(土)
2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出が無いにも関わらず、その絶望の果てから浮かび上がる強烈な歌詞世界が多くの人々の魂を鷲掴みにし噂が噂を呼ぶamazarashi。そのミステリアスな存在感同様に、ライブも演奏するバンドの前に張られた薄い半透明の幕、ステージ後方のスクリーンと二重のレイヤー構造に目まぐるしく映像が投影され、激しく点滅するストロボライトの下、ステージ上には本人達のシルエットのみが薄っすらと浮かび上がるというまるで白昼夢の如きパフォーマンスはまさに衝撃的!音楽と映像が全編に渡って巧みにシンクロする幻想的なスタイルもamazarashiを構成する大きな魅力のひとつと言っても過言ではないだろう。
この日は2ndフルアルバム「ラブソング」以来のリリースとなる「ねぇママあなたの言うとおり」を携えての東名阪ツアーの皮切り、3回目の渋谷公会堂、そして初の2days!嫌が上にも観客の期待は高まる中、濃密なamazarashiワールドが展開された。
初日、開演を10分ほど過ぎた頃、客電が落ちていよいよツアーの幕が落とされる。
LED照明による印象的なイメージドットの眩い光が揺らめく下でステージ中央の秋田は呟く。
「優しい人になりたくて 完璧な人になりたくて…」
ポエトリーリーディングを経て、冒頭は最新作「ねぇママあなたの言うとおり」から「僕は盗む」「ジュブナイル」でライヴはスタート。
MVを始めとするストーリー仕立ての映像がアグレッシヴなバンドの演奏と交錯し観客はamazarashiの世界に引込まれて行く。
ライヴは最新作「ねぇママあなたの言うとおり」収録曲を中心に「千年幸福論」「ラブソング」の2枚のアルバム、そしてその他の「0.6」「爆弾の作り方」「アノミー」からも数曲づつ選ばれたセットリストで進行して行く。
MCともポエトリーリーディングともつかない秋田の呟き「例えるならばつまり風に流離う」。
5曲目、最新作からの「風に流離い」。
「勝ちなんてない 負けなんてない 死ぬまで続く無縁な戦い」。
眩い照明の煌めき、映像の魔法にオブリガードされた秋田のメッセージがじわじわと観客の心に染込んで行く。
象徴的な水のせせらぎの音からライヴではお馴染みの「つじつま合わせに生まれた僕等」。
歌詞にリンクした大きな木の映像に戦争や環境破壊を始めとする人間の愚行の数々がフラッシュバックする。
「光、再考」。歌詞がステージの紗幕をスクロールしながら物語を紡いでいく。
ステージ中盤、「ラブソング」ではMVの映像が演奏とシンクロし、秋田と思しき帽子の男がステージを闊歩する。
観客はまるで一本の映画でも見ていたような錯覚に陥る。
ループするビート、激しく明滅するストロボ、巨大なCGによる人体模型の如き映像が跡形もなく崩れ落ちて行く「デスゲーム」。
ギターのフィードバック・ノイズ、ドラム・ロールが誘うシューゲイズ・ナンバー「ムカデ」の歪んだ音の洪水はもはや圧巻。
映像を使用せず照らし出す照明の中、微かに浮かび上がる5人のシルエットは狂ったように高揚している。
10曲目、またしても最新作から「春待ち」。
冒頭のLED照明によるイメージドットが鳥の翼をステージ上に幻出させる。
そして優雅に羽ばたく電子の翼に誘われ、秋田のポエトリーリーディングは見るもの全ての心に、見た事もない何処かの或る街の風景を去来させる。
ライヴも終盤、舞い上がる光の渦、人間の手が描き出す影絵の世界、過去の記憶が蘇る8ミリフイルムの荒れた映像、走り続ける電車の車窓からの映像、ステージに浮かび上がる様々なイメージは失われた街の記憶のようにamazarashiの音楽に寄り添っている。
14曲目「美しき思い出」ではステージに張られた紗幕いっぱいに無数の泡が浮かび上がる。それはまさに切なくも美しい思い出の欠片のように壊れては消えて行く。
ここで初めて秋田が観客に向かって語り始めた。
「陸奥市から引っ越しました。~中略~(陸奥市には数々の思い出がありこれまでは拘っていたのだが)どうせこの瞬間もすぐ思い出に変わるなら行きたいところに行きたいなと思いました。」
不器用ながら真摯な秋田の言葉、前を向いて歩き出すとも取れるメッセージに会場から拍手と歓声が沸き上がる。
最後には「この街で生きている」、そして最新作から「性善説」でamazarashi LIVE TOUR2013、東京公演初日は終了。
翌日、基本は同じセットリストながら初日の4曲目「夏を待っていました」が「空っぽの空に潰される」、14曲目の「美しき思い出」が「カルマ」に変更されていた。
2日目、平和と争いを描き出す「カルマ」では映像のみならず、ステージ上に何と本物の松明の火が灯り、揺らぐその炎は微かにメンバーの苦悩の表情をも照らし出しているかの如く見えた。そしてこの後、ちょっとしたハプニングが…。
前日同様、ここで初めて秋田が観客に向かった語り始めたのだが…。
「数年前に…何でもないです(笑)次の曲に行きます!」
amazarashiでは珍しく客席から笑いが溢れる。歓声があがる。
一体秋田の胸にはどんな思いが込み上げていたのだろう?それはもはや本人にしか解らない。
かつて秋田はこの同じ渋谷公会堂のステージで「誰にも期待されなかった人間が、なんとか踏ん張って、しがみついてここに立てたというのは、みんなの励みになるんじゃないかと思います」と語った。amazarashiは、秋田ひろむは、もう誰にも期待されない人間なんかじゃない。最新作「ねぇママあなたの言うとおり」はオリコンチャート週間アルバムランキングで初のトップ10入りの自己最高8位を記録し、8月には初のフェス出演となる「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO」への出演も決定している。
紗幕越しに姿を隠していた数年前には「誰にも期待されなかった人間」が、amazarashiの存在が徐々に姿を現し始めている。
暗転するステージの上で秋田の胸にはそんな感慨が浮かんでいたのではないだろうか?
最後は前日同様「この街で生きている」、そして「性善説」の2曲。
「性善説」では、そのパラドクス的歌詞世界に連動してマリア像、モノクロームの追憶の映像、天使のイメージが浮かんでは消える。
「あなただけが私の善なのよ」
秋田の印象的な歌声が会場に響き渡り、両日共に全16曲、渋谷公会堂2日目のステージが終了した。
前日同様、ライヴ終了後も客電はしばらく付かず、映画のエンドロールのようにamazarashi の未公開曲がフルサイズで流れる中、誰一人席を立つものはいない。曲が終わり徐に明かりが灯り始めて会場は暖かい拍手に包まれる。
まるで映画や舞台を見た後のような濃密で鮮明な余韻を残したままamazarashi LIVE TOUR2013、東京公演は幕を閉じた。
尚、amazarashiはこの後、6月8日、なんばhatchにて大阪公演、6月9日名古屋ダイヤモンドホールにて名古屋公演を控えている。