文 : 鈴木淳史
Wed.24.Oct.2012
ホール&オーツみたいなノリで始めさせてもらいましたが、もしホール&オーツ御存じなかったら、すぐにヤホーでもしてください。
さて、学生時代から何かしら物書き志望だった僕はCDにつくライナーノーツが好きでした。
基本は洋楽ですが、洋楽の影響を受けた邦楽でもちらほらお見受けしたもので、音楽評論家と名乗る人が書いていたりするのです。
そのミュージシャンの歴史を振り返りながら、自身の見解を述べていったり、中には、それ用にインタビューをこなし、踏まえた上で書いていったりする。
学生の僕は憧れたものです…、いつかライナーノーツを依頼されるような物書きになりたいと。
ここ数年、ありがたい事に依頼されるようになってきました。
ライナーノーツも、CDにつくもの意外に色々とパターンがあります。
まずはラジオや雑誌などの業界の人に資料として先に音源を配る際、紙資料というものがあるのですが、そこで取扱説明書的に書くパターン。
後はレコード屋のフリペなどに、レコード会社が広告としてページを購入して、そこに掲載する文章としてのパターン。
で、当たり前なのですが、褒めるわけですよ。
そりゃ、推薦するわけだから。
もちろん、けなせとは言いませんよ。
好きな人を推薦するのが第一なんだし、そんな嫌いなものをけなすために言葉なんて書きたくないですから。
でも、それこそパターン化するわけですよ。
例えば…、「約1年半ぶりとなるニューアルバム。彼らの持ち味であるダンスロックを基調としながらも、今作はアメリカでレコーディングしたことで、より骨太なサウンドとなった。まず、1曲目『RECORD DAIRY』ではシンセの音がいつも以上に……」みたいなね…。
今の何か目を瞑っても書けるような、何の面白みもない文章で、例え良いアルバムとしても魅力を感じない。
だからと言って、本人のコメントがあっても…、「『何かもっと良いものというか…、とにかくバンドの在り方をイチから考え直したんです』とボーカルのPECは語るように、今作は過去の作品以上にバンド感が……」とだけ書いても決して嘘ではなく本音なんだけど、何か面白みがない。
要は先人たちに草も生えないくらいに焼け野原にされてしまったライナーノーツ…、そんな中でみんなが頭を捻って心をほじくり回すわけだが…。
さて、そんな中で僕が書く場合、基本は徹底的にインタビューして、諸々データ歴史整理をしていくし、インタビューない場合でも徹底的にデータ歴史を調査して整理していく。
もちろん、インタビュイーに対して、対象ミュージシャンに対して、愛があるから熱があるからできるし、ライナーノーツみたいな宣伝資料となる大事な文章は愛と熱がなくて簡単に仕上げられるものではない。
と、前口上が長くなったが、この度、一本のライナーノーツを書くことになった。
黒猫チェルシーのNewAlbum「HARENTIC ZOO」について。
決め事は特にないものの、「堅苦しくなくポップなもの」とだけは言われていました。
ボーカルの渡辺大知君への電話インタビューだけお願いして、ふたりで色々話していく…。
話としては深く熱いものが聞けたが、では、それをどうアウトプットするか…。
どうしたら凡百のライナーノーツではなく、面白みのある魅力的なものに仕上がるか。
電話終わり、大知君が何気にこんな事を言ってきた。
「鈴木さん、このインタビュー、呑みながらやった事にしてくれませんか?! それに嘘を書いてもらっても良いので! おもしろけば、何でもいいので!」
なるへそ! そこで閃きました。
そういや、2年前、ミドリの後藤まりこ女史に「アルバムタイトルと曲タイトルだけで、音も聴かず、インタビューも無しで、妄想で書いて!」と言われた事を思い出したのです。
元々関係性もあったし、そういうけったいな文章世界が好物の僕としては、たいそう有り難い依頼でした。
そう比べると、今回は音も聴けてるし、インタビューも出来ている。
てなわけで、そこから一瞬で書き上げていったものです。
というわけで、まず、元ネタとなった2年前のミドリライナーノーツを読んで頂きましょう。
某レコード屋フリペに掲載されたものです、ある意味、幻かも…なんつうてね。
「Welcome to妄想新世界」
~ミドリnew album「shinsekai」を読み解く~
4月某日、大阪・新世界の純喫茶「ユカリ」に呼び出された。相手は大阪時代から5年来の付き合いであるミドリの後藤まりこ。新譜の取材依頼。僕が着くと、既に彼女はクリームソーダを飲み干し、サクランボの茎を舌で結びながら軽やかなリズムを取っていた。
「突然呼び出してごめんな。どやった、アルバム?」と単刀直入に聞かれ、ふと僕は去年の大晦日、年越しライブで彼女が言っていた事を思い出した。「あんな、もっと優しい曲を歌いたいねん」。
衝動的な楽曲だけでなく、ミドリには「POP」、「あたしのお歌」、「グッバイ」など優しくて、それこそPOPなスローナンバーが存在する。激しいライブのラストに、そういった楽曲が歌われると、いつも涙腺が緩んでしまう。今作はミドリ史上最高にPOPで優しいアルバムが完成した…と思っていた。が、1曲目「鳩」を聴いてぶっ飛んだ。
「♪ポーポーポポポーポポポ♪」と鳩の鳴き声のみが響き渡り、鳩になりきった後藤の「♪ポーポーポポポーポポポ♪」という歌声が絡む。アバンギャルド過ぎる…。「僕、大阪おった時から鳩をこうてたやん。あの子らとセッションしたかってん」。猫好きなのは知っていたが、鳩好きだなんて聞いた事ない…、新沼謙治じゃないんだから。
気を良くした後藤は、ずっと鳩のあるある話をしている。何とか新譜の話に戻そうと、キュートなボーカルがたまらない「あたし、ギターになっちゃった!!!!!」の話題を、鳩あるある話を遮り切り出した。
すると、「僕な、首から下は人間なんやけど、頭はギターになってるんやんか。”ギター人”って、言うねん。なぁ、人間の体とギターの頭のちょうど境目を見せたろか!」。…、もはや話にならない。
って、読んでておかしいと思ったあなた…、おかしいに決まってるやろ! 百聞は一聴にしかず。寺山修司の言葉を拝借するなら、「レビューを捨てよ、レコード屋へ出よう」だ。真実はレコードの中のみ。耳をかっぽじいて聴くように、以上。
…さてさて、読んでいただき、ありがとうございます。
かなり最後に注意書きをしているものの、本当の話だと信じて、質問をしてきた業界の人もいたらしいです…。
では、ようやくですね、読んでいただきましょう!
『黒猫物語』 ~NewAlbum「HARENTIC ZOO」を呑み解く~
http://www.kuronekochelsea.jp/harenticzoo/
限りなくフィクション(渡辺大知泥酔箇所)に近いノンフィクションです。
おあとがよろしいようで。